CASE NOTE / 裁判例
不正競争
令和8年4月24日
東京地方裁判所
令和7年(ワ)第70563号
「シュパットタイプ」の表示による商標権侵害と、エコバッグの形態の不正競争防止法上の保護を認めた東京地判令和8年4月24日を解説。商標の類似性、商品形態の周知性、擬制自白を踏まえた判決の射程を検討する。
商標権の侵害は、登録商標と全く同じ標章を使用した場合に限られない。指定商品又は指定役務について登録商標に類似する商標を使用する行為や、これらに類似する商品又は役務について登録商標又はこれに類似する商標を使用する行為も、侵害とみなされる(商標法37条1号)。
商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断される。
その判断に当たっては、商標の外観、称呼及び観念によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察するとともに、取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況を踏まえるものとされている(最三判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁〔氷山印事件〕)。
そのため、他人の登録商標に別の語を付加したとしても、付加した語の意味や識別上の重みを考慮した結果、商標全体として類似すると判断されることがある。文字数や称呼が完全には一致しないことをもって、直ちに非類似と判断されるものではない。
もっとも、標章が類似することと、その具体的な使用態様に商標権の効力が及ぶこととは区別する必要がある。例えば、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する商標には、商標法26条1項2号により商標権の効力が及ばない。また、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できる態様で使用されていない商標については、同項6号の問題となる。もっとも、単に使用者が商品の説明を意図していたというだけで、これらの規定に該当すると判断されるものではない。
結合商標の類否判断及び分離観察に関する裁判例の整理については、「結合商標の類否判断と分離観察―最高裁判例と近時の『第三類型』」を参照されたい。
不正競争防止法2条1項1号は、他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用するなどして、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を不正競争行為とする。
商品の形態は、本来、機能や効用を発揮させ、あるいは美観を向上させるために選択されるものであり、当然に商品の出所を表示するものではない。
もっとも、独自の特徴を備えた形態が、継続的な使用や宣伝広告等を通じて、特定の事業者の商品であることを示すもの(自他商品識別機能)として広く認識されるに至ることがある。この場合には、形態自体が同号の商品等表示として保護され得る。
本判決も、商品形態の商品等表示該当性について、①他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すること(特別顕著性)及び②その形態が特定の事業者の出所を表示するものとして需要者の間で周知となっていること(周知性)を要求している。
したがって、商品がよく売れていることや、形態が新しいことだけでなく、その形態が商品の出所を示すものとして認識されているかが問題となる。
以下の記載は、東京地判令和8年4月24日(令和7年(ワ)第70563号)による。
原告は、家庭日用品等の製造販売を行う会社であり、「Shupatto」等の商品名を用いたコンパクトバッグ・手提袋(以下「原告商品」という。)を販売していた。また、標準文字の「シュパット」からなる登録商標(登録第6064077号。指定商品には「携帯用買い物用手さげ袋」等を含む。以下「原告商標」という。)の商標権等を有していた。
被告らは、「ZI!PA!」という商品名の手提袋(以下「被告商品」という。)を販売し、その販売場所に掲示するPOPやYouTubeでの広告に「シュパットタイプ」という表示(以下「被告標章」という。)を使用していた。
また、被告商品のパッケージやYouTubeの広告には、被告らが保有していない特許について、特許を取得している旨の表示がされていた。
原告は、商標権侵害、不正競争等を主張し、被告商品の販売等の差止め及び廃棄、被告標章の広告への使用の差止め、「特許取得済」の表示の差止め並びに損害賠償金200万円の支払等を求めた。
被告らは、適式の呼出しを受けながら口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。
裁判所は、被告らが請求原因事実を争うことを明らかにしないとして、これを自白したものとみなした。その上で、商標権侵害等の成否を判断している。
東京地裁民事第29部(澁谷勝海裁判長)は、氷山印事件の判断枠組みを示した上で、原告商標と被告標章の外観、称呼及び観念を比較した。
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
まず、外観については、両者が「シュパット」の文字を共通にし、「タイプ」の有無で相違するものの、次のとおり判示して類似性を認めた。
原告商標と被告標章は、その外観において「シュパット」との標準的な文字が共通し、「タイプ」との記載で相違するところ、「タイプ」との記載は型を示す用語であり、特段の意味を有しないものであることからすると、外観において類似すると認められる。
称呼についても、「シュパット」と「シュパットタイプ」は「タイプ」の音の有無で相違するが、語頭の称呼が共通し、「タイプ」の記載が特段の意味を有しないことから、共通する称呼が識別上重要であるとして、類似性を認めた。
原告商標の称呼は「シュパット」であり、被告商標の称呼は「シュパットタイプ」であるから、両者は「タイプ」との音の有無で相違する。しかし、両者は、語頭における称呼を共通とするものであり、かつ、上記アのとおり、「タイプ」との記載は特段の意味を有しないことからすると、両者の称呼の共通性は、識別上、重要であると認められるから、称呼においても類似すると認められる。
観念については、いずれも一種の造語であり、特定の観念を生じないとした。
以上から、被告標章は原告商標と外観及び称呼が類似し、特定の観念を生じないものであって、需要者に出所の誤認混同を生ずるおそれがあるとして、両者の類似性を認めた。
そして、被告らが被告標章をPOPやYouTubeの広告に付していたことから、商標権侵害を認めた。
裁判所は、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たるための要件について、次のとおり判示した。
商品の形態は、本来的には、商品の技術的な機能及び効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり、商品の出所を表示する目的を有するものではないが、特定の商品の形態が、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、その形態が長期間継続的・独占的に使用され、又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに、需要者の間に広く認識されることにより、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このような商品の形態は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号によって保護される他人の周知な商品等表示に該当するものと解される。そうすると、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、同号所定の「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解すべきである。
その上で、擬制自白の対象となった請求原因事実を踏まえ、原告商品の販売開始時に、原告商品形態の特徴を備えた同種商品が存在したとは認められないとして、特別顕著性を認めた。
また、原告が販売開始以降に広告宣伝を行い、多数の雑誌、新聞及びテレビ番組で商品が紹介され、デザインに関する複数の賞を受賞していたことなどから、原告商品形態は、遅くとも被告商品の販売開始時期である令和3年12月21日頃より前に周知となっており、口頭弁論終結時にも周知性を有していたとした。
なお、裁判所が参照した別紙請求原因では、原告商品形態は、端部を絞ったアコーディオン状の折り目を有し、広げた状態から帯状の状態にし、さらに丸めて携帯できることなどによって特定されている。
裁判所は、商品等表示の類似性について、取引の実情の下で、外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から、取引者・需要者が両表示を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準とするとした。
ある商品等表示が不競法2条1項1号の「類似」に該当するか否かは、取引の実情の下において、取引者又は需要者が、両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁、最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
その上で、擬制自白の対象となった請求原因事実を踏まえ、被告商品形態は原告商品形態と類似すると判断した。
また、被告らが被告商品を販売・展示し、継続的にインターネットで提示していたことから、被告商品を見た需要者において、商品の出所又は営業主体が原告と同一であると混同を生ずるおそれがあるとした。
裁判所は、被告らが保有していない特許の登録番号をパッケージに付し、広告にも特許取得の事実を記載したことについて、被告商品が被告らの特許発明の実施品であるとの虚偽の事実を示すものとした。
もっとも、その表示は、事実に基づかずに被告商品の価値を高めるものとはなり得ても、直ちに原告商品の客観的価値を低下させるものではないとして、不正競争防止法上の信用毀損行為に当たることは否定した。
このような被告らの表示は、被告商品が被告らの特許発明に係る実施品であるといった虚偽の事実を示すものであるとはいえるものの、当該表示は、事実に基づかずに被告商品の価値を高める性質のものとはなり得ても、そのことから直ちに原告商品の客観的価値を低下させるような性質のものということはできないから、当該表示をもって被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布するものであると認めることはできない。
他方、実際よりも被告商品が著しく優良又は有利であると誤認される表示であるとして、独占禁止法上のぎまん的顧客誘引に該当するとした。
自白したものとみなされる別紙請求原因6のとおり、被告らは、原告商品と類似する被告商品を販売する際、被告標章を使用するとともに、被告らのいずれも保有していない特許に係る特許登録番号を被告商品のパッケージに付すとともに、Youtubeでの広告にも特許取得の事実を記載しているところ、このような表示は、実際の製品よりも被告製品が著しく優良又は有利であると誤認されるものであるといえるため、ぎまん的顧客誘引に該当すると認められる。
ただし、原告に相応の損害が発生したことは推認できるものの、原告商品の累計販売数が令和3年には1,000万個を突破していたことなども考慮し、原告に「著しい損害」が生じ、又はそのおそれがあるとまでは認められないとして、独占禁止法に基づく差止めは認めなかった。
裁判所は、擬制自白の対象となった請求原因事実を踏まえ、被告商品の累計譲渡数は3万個を下らず、原告商品の限界利益は1個当たり2,175円を下らないとした。
そして、不正競争防止法5条1項による推定損害額は6,525万円を下らないとして、原告が一部請求した200万円を、相当因果関係のある損害として認めた。
結論として、被告商品の販売等及び被告標章の広告への使用の差止め、商品・掲示物の廃棄等に加え、被告らに対して連帯して200万円及び遅延損害金を支払うことを命じた。他方、「特許取得済」の表示の差止請求は棄却した。
本判決は、「シュパット」と「シュパットタイプ」の外観及び称呼の共通性を重視し、両者が類似すると判断したものである。
「タイプ」は、一般に商品の型や種類を示すために用いられる語である。そのため、本判決がいう「特段の意味を有しない」とは、「タイプ」という語に辞書的な意味がないという趣旨ではなく、本件の類否判断において、共通する「シュパット」の部分に比べて識別上の重みが乏しいと評価したものと理解できる。
もっとも、本件では被告らが応訴しておらず、「タイプ」という語によって他社製品との違いを説明しているにすぎないとの反論や、商標的使用の有無についての詳細な判断は示されていない。「○○タイプ」という表現が常に商標権侵害となると一般化することはできず、具体的な表示内容及び使用態様を検討する必要がある。
本件では、原告商品形態が、広げた状態、帯状の状態及び丸めた状態に変化することを含めて特定されていた点にも特徴がある。
商品形態の出所識別機能を検討する際には、静止した一つの状態だけでなく、需要者が販売実演、動画又は実際の使用を通じて、どのような特徴を認識するかが問題となり得る。本件の請求原因においても、店頭の展示や動画等により、状態の変化を含む形態を需要者に示していたことが主張されている。
商品形態の保護については、保護対象となる形態をどの程度具体的に特定するかも重要となる。例えば、シリーズ商品の形態について、シリーズ商品に共通する形態が、不正競争防止法第2条1項3号の形態模倣ではなく、1号の商品等表示として保護されることになれば、シリーズ商品を長年にわたり保護することが可能となる。そこで、シリーズ商品については、相当程度抽象的な要素が商品等表示であると主張されることになるが、共通する特徴を過度に抽象化すると、同種商品との区別が曖昧となり、特別顕著性が否定されたり、受容者が出所識別表示として認識していない要素であるとされるリスクがあったりすることを指摘する見解もある(山本真祐子「鞄のシリーズ商品形態が商品等表示として保護された事例」ジュリスト1556号〔2021年〕112頁以下)。本件についても、単に「引っ張ると折り畳める鞄」と捉えるのではなく、各状態の具体的な形態とその変化のうち、どの特徴が需要者に出所を示すものとして認識されているかを検討する必要がある。
なお、本判決は、擬制自白の対象となった事実を踏まえたものであり、状態の変化や機能的な特徴のどこまでを商品等表示として保護できるかについて、詳細な説示をしたものではない。
また、機能を実現するために競争上採用せざるを得ない形態を、商品等表示として保護することには限界があると考えられる。代替形態を検討する際には、同等の機能を発揮する他の形態の有無や製造コストを考慮し、需要者が着目しない細部の差異だけで選択肢があると評価すべきではなく、本件においても、他の形状のエコバッグが存在するというだけでなく、問題となる折り畳み機能と同等の機能を実現する別の形態が選択できるかが検討課題となると考えられる。
本判決は、「特許取得済」の表示について、不正競争防止法上の信用毀損行為に当たることを否定したが、本件の表示について、不正競争防止法2条1項20号の品質等誤認惹起行為として構成して差止請求をしていれば、差止請求が認容される余地が相応にあったと指摘している(染谷隆明「ぎまん的顧客誘引と差止請求の『著しい損害』」ジュリスト1627号〔2026年〕7頁)。
信用毀損行為では他人の営業上の信用を害する虚偽の事実が問題となるのに対し、品質等誤認惹起行為では、自社商品の品質等について誤認させる表示が問題となる。また、不正競争防止法3条1項による差止めは、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあることを要するが、独占禁止法24条のように「著しい損害」を要件とはしていない。このため、虚偽表示への対応では、表示内容が各規定の対象に当たるかに加え、差止めに必要な要件の違いを踏まえて請求を構成することが重要となる。
商標の類否、商標権侵害、警告対応については、商標・商標権侵害に関する取扱業務をご覧ください。不正競争防止法に関する対応については、不正競争防止法に関する取扱業務をご覧ください。
商標権侵害・不正競争防止法違反の警告への対応 →
商標権・不正競争防止法に関する紛争の初動相談 →
©️ 2026 KOSUKE SUGAWARA