CASE NOTE / 裁判例

ウェブサイトの記事見出しにおける「五輪」の表示と不使用取消審判における商標の「使用」(知財高判令和8年6月18日(令和7(行ケ)10121号))

商標

令和8年6月18日

知的財産高等裁判所

令和7年(行ケ)第10121号

IOCの公式ウェブサイトの記事見出しに、五輪マークとともに「五輪」と表示した行為が、第41類の情報提供役務について登録商標の使用に当たるとされた事例。商標的使用の要否をめぐる近時の裁判例と併せて検討する。

1 不使用取消審判における登録商標の「使用」

(1)不使用取消審判の趣旨

商標法50条1項は、継続して3年以上、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが指定商品又は指定役務について登録商標を使用していないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消審判を請求することができると定めている。

(商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

登録商標には排他的な権利が認められる一方で、長期間「使用」されていない商標を存続させることは、第三者の商標選択の余地を狭めることになる。不使用取消審判は、このような不使用商標を個別の請求により整理する制度である。

取消審判が請求された場合、商標権者側は、審判請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」という。)に、日本国内で、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、請求に係る指定商品又は指定役務について登録商標を使用したことを証明しなければならない(同条2項)。ここでいう登録商標には、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標など、登録商標と社会通念上同一と認められる商標も含まれる(38条5項括弧書き)。

(2)ウェブサイト上の表示と商標法上の「使用」

商標法2条3項は、標章を商品又はその包装に付す行為、標章を付した商品を譲渡する行為、商品又は役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為など、商標法上の「使用」に該当する行為を列挙している。

本件で問題となった同項7号は、「電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によつては認識することができない方法をいう。以下同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」を「使用」の一態様とする。
ウェブサイトに標章が表示されているというだけではなく、映像面を介して行われる役務の提供と、その標章の表示との関係が問題となる。

(3)商標的使用の要否

不使用取消審判における「使用」については、商標法2条3項各号に掲げられた行為に形式的に該当すれば足りるのか、それとも、商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別する態様での使用、いわゆる商標的使用であることまで必要かが議論されてきた。

商標的使用を不要とする見解は、商標法50条の趣旨が、全く使用されていない登録商標は第三者の商標の選択の余地を狭めることから排他的な権利を与えておくべきでないことにある以上、登録商標が指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りると考える。
この立場を明示した裁判例として、POLA事件(東京高判平成3年2月28日)、アイライトⅠ事件(知財高判平成27年11月26日・判時2296号116頁)、LE MANS事件(知財高判平成28年9月14日(平成28年(行ケ)10086号))、アイライトⅡ事件(知財高判平成28年11月2日(平成28年(行ケ)10115号))、たべるん事件(知財高判令和8年6月29日(令和8年(行ケ)10009号))がある。

これに対し、商標的使用を必要とする見解は、出所識別機能を発揮しない態様でしか使用されていない商標は混同も生じないので、商標権を維持して排他的権利を存続させる理由は乏しいと考える。この立場を示した裁判例として、DALE CARNEGIE事件(東京高判平成13年2月28日・判時1749号138頁)、知本主義事件(知財高判令和4年2月9日(令和3年(行ケ)第10076号)、池麺事件(知財高判令和7年10月20日(令和7年(行ケ)10032号等))、Value Investing Academy事件(知財高判令和7年10月21日(令和7年(行ケ)第10052号))がある。

2 本件の概要

被告である国際オリンピック委員会(IOC)は、「五輪」の標準文字からなる登録商標(登録第6118624号)の商標権者である。本件商標は、第41類の「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」等を含む役務を指定役務としていた(知財高判令和8年6月18日(令和7年(行ケ)第10121号))。

原告らは、令和6年3月1日、本件商標の第41類の全指定役務について、商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求した。要証期間は、令和3年3月1日から令和6年2月29日までであった。

特許庁は、「https://olympics.com/ja/news/」の文字を含む URL が設定されたウェブサイトに掲載された次の2件の記事を根拠として、要証期間内に本件商標が使用されたと認め、審判請求を不成立とした。

  • 令和3年4月5日付け「【ロジャー・フェデラー】5度目の五輪、テニス男子シングルスで金メダルを目指す」との見出しの記事(本件記事1)

  • 同年8月5日付け「東京五輪・女子テニス総括」との見出しの記事(本件記事2)

原告らは、この審決の取消しを求めて訴えを提起した。

3 原告らの主張

原告らは、主として次の2点を主張した。

第一に、IOCがスイス国の外国法人であることは立証されておらず、民法35条1項によりその成立が認許された外国法人でもないから、日本国内で権利能力を有しない、そうすると、IOCは、商標権を享有する権利能力を有さず、IOCによる本件商標の使用を商標権者による使用には該当しないと主張した。

第二に、各記事の見出し中の「五輪」は、オリンピックを意味する俗称として用いられているにすぎず、識別標識である登録商標「五輪」として使用されたものではないと主張した。また、各記事が掲載されたウェブサイトは別法人であるオリンピックチャンネル社によって運営・管理されており、IOC自身による使用も立証されていないと主張した。

4 知財高裁の判断

(1)IOCの権利能力

知財高裁第3部(中平健裁判長)は、次のとおり判示した上で、日本とスイスはいずれも同条約の同盟国であること、IOCはスイス法に従って組織され存続する法人であることから、IOCは日本国内で商標に関する権利を享有できると判断した。

民法3条2項は、「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定し、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、特許法25条は、「日本国内に住所又は居所(法人にあ っては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、 特許権その他特許に関する権利を享有することはできない。」、同条3号は 「条約に別段の定があるとき」と規定し、商標法77条3項は、特許法25条の規定を準用している。そして、特許法25条柱書きの「外国人」には、外国法人が含まれ、また、同条には、外国法人について、民法35条の認許された外国法人に限定する文言はないから、認許されていない外国法人も、特許法25条柱書きの「外国人」に該当するものと解される。

しかるところ、パリ条約2条1項は、「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国 において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与え ることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」と規定しており、この規定は、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当するものと解される。

(2)本件各記事を公開した主体

知財高裁は、IOC担当部長の陳述書に基づき、各記事が掲載されたウェブサイトはIOCのウェブサイトであり、同担当部長がウェブサイトに関する活動を監督していたと認定した。

ウェブサイトの管理・運営及び各記事の作成はオリンピックチャンネル社に委託されていたが、記事の作成者が同社又はその編集者であることと、記事を掲載したウェブページの公開主体がIOCであることとは別の問題である。
知財高裁は、各記事はIOCが自らのウェブページで公開したものであり、IOCと同社との契約書が証拠として提出されていないことも、この認定を左右しないとした。

(3)商標法2条3項7号の「使用」

知財高裁は、本件各記事が、東京オリンピックの競技種目であるテニスの運営又は開催に関する情報や競技結果を伝える内容であることから、各記事は、本件指定役務である「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」、及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営 又は開催に関する情報の提供」を目的とする記事ということができ、これら記事を掲載したウェブページを公開する行為は、「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」、「スポーツ競技結果の情報提供」、「スポーツの結果に関する情報の提供」及び「スポーツの興行及びスポーツイベントの企画・運営又は開催に関する情報の提供」に該当するとした。

また、各記事では、その見出し中の「五輪」の文字が、オリンピックのシンボルであるいわゆる五輪マークと共に表示されていた。

知財高裁は、本件各記事を掲載したウェブページを公開しているのは被告であり、その行為はネットワークを通じた役務の提供を対象とするものであり、モニター、ディスプレー等の「映像面」に標章を表示して役務を提供する行為であるから、商標法2条3項7号にいう「電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。以下同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標 章を表示して役務を提供する行為」に当たると判断した。

(4)商標的使用の要否

原告らは、本件各記事における「五輪」は、オリンピックを特定する俗称として使用されたものにすぎず、商標として使用されていないと主張した。

これに対し、知財高裁は、次のとおり判示した上で、本件各記事における「五輪」は、被告のウェブページに、オリンピック(五輪)と関連する記事としてオリンピックのシンボルである五輪マークと共に掲載されたものであるから、本件商標を、本件指定役務である「スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」等について、前記のとおり商標法2条3項7号にいう使用として、商標法50条所定の「登録商標の使用」をしたものというべきであるとした。

商標法50条の趣旨は、登録された商標には排他独占的な権利が発生することから、長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは、当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので、一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことを認めたものである。そうすると、商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではないというべきである。

5 検討

(1)ウェブページ上に文字が存在するだけで「使用」とされたものではないこと

本判決は、ウェブページ上に登録商標と同じ文字が掲載されていれば、直ちに商標法50条の使用に当たると判断したものではない。

本判決が使用を認めるに当たっては、①各記事がIOCの公式ウェブサイトに掲載されていたこと、②記事の内容自体が本件指定役務であるスポーツの運営・開催又は競技結果に関する情報の提供に該当したこと、③記事見出し中の「五輪」が五輪マークと共に表示されていたこと、④ウェブサイトの運営を委託していても、IOCがその活動を監督し、実質的な公開主体であったことが認定されている。

したがって、本判決の射程は、登録商標の文字がウェブサイトの本文や過去の記事に残っているというだけの場面にまで、当然に及ぶものではない。

(2)商標的使用の要否に関する本判決の位置付け

本判決は、商標法50条の「使用」について「商標として使用されていれば足りる」と述べているものの、その使用が商標権者自身を出所として表示する場合に限定されないとも述べ、一般にオリンピックの俗称として理解される「五輪」について使用を肯定した。

この点で、本判決は、登録商標が出所表示機能を果たす態様で用いられることを要求した近年の知本主義事件(知財高判令和4年2月9日(令和3年(行ケ)第10076号)、池麺事件(知財高判令和7年10月20日(令和7年(行ケ)10032号等))、Value Investing Academy事件(知財高判令和7年10月21日(令和7年(行ケ)第10052号))等よりも、商標法50条の使用を広く認めたものとみることができる。

知本主義事件(知財高判令和4年2月9日(令和3年(行ケ)第10076号))(知財高裁第2部(本多知成裁判長))

商標法50条にいう「登録商標の使用」について商標法上,商標の本質的機能は,自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから(同法3条参照),同法50条にいう「登録商標の使用」というためには,当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し,自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当である。

池麺事件(知財高判令和7年10月20日(令和7年(行ケ)10032号等))(知財高裁第1部(本多知成裁判長))

商標法上、商標の本質的機能は、自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから(法3条参照)、法50条1項にいう「登録商標の使用」というためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当である。

Value Investing Academy事件(知財高判令和7年10月21日(令和7年(行ケ)第10052号))(知財高裁第2部(清水響裁判長))

そこで、検討すると、商標法上、商標の本質的機能は、自他商品又は役務の識別機能にあると解するのが相当であるから(商標法3条参照)、同法50条にいう「登録商標の使用」というためには、当該登録商標が商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は役務を識別するものと取引者及び需要者において認識し得る態様で使用されることを要すると解するのが相当である(知財高裁令和3年〔行ケ〕第10076号同4年2月9日判決参照)。

他方で、UNBRAKO事件(知財高判令和7年2月27日(令和6年(行ケ)10087号))では、商標法第50条所定の「使用」について、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではない旨の判断がされていた。

UNBRAKO事件(知財高判令和7年2月27日(令和6年(行ケ)10087号))(知財高裁第2部(清水響裁判長))

商標法50条の趣旨は、登録された商標には排他独占的な権利が発生することから、長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは、当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので、一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことを認めたものである。そうすると、商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではないというべきである。

さらに、本判決の11日後に言い渡されたたべるん事件(知財高判令和8年6月29日(令和8年(行ケ)10009号))は、商標法26条1項6号が商標的使用でない商標に商標権の効力が及ばないことを明文で定める一方、同法50条には同様の限定がないことを理由として、不使用取消審判の「使用」は商標的使用に限られず、指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りると明示した。

たべるん事件(知財高判令和8年6月29日(令和8年(行ケ)10009号))(知財高裁第2部(森冨義明裁判長))

商標法50条1項は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判の請求をすることができる旨を、同条2項本文は、当該審判の請求があった場合においては、その審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない旨を定める。これは、不使用の登録商標に対して独占排他的な権利を付与することは国民一般の利益を不当に侵害するとともに、権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなって、公益上適切でないことによるものと解される。そして、かかる商標法50条の趣旨に加え、同法26条1項6号が、同法2条の定める「商標」のうち、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」、すなわち商標的使用のされていない商標については、商標権の効力が及ばない旨を明文で定めるのに対し、同法50条では、かかる限定がされていないことにかんがみると、同条2項本文にいう「登録商標の使用をしている」というためには、その文言のとおり、当該登録商標が、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様により使用されていることまで要しないと解するのが相当である。

商標の類否、商標権侵害、警告対応については、商標・商標権侵害に関する取扱業務をご覧ください。
商標権侵害の警告への対応 →
商標権に関する紛争の初動相談 →

©️ 2026 KOSUKE SUGAWARA