CASE NOTE / 裁判例

販売代理店が取得した商標権に基づく製造元への権利行使と権利濫用(知財高判令和8年9月9日(令和8年(ネ)第10017号)[ゴミサー権利濫用事件])

商標

令和8年9月9日

知的財産高等裁判所

令和8年(ネ)第10017号

販売代理店が製造元の商品名「ゴミサー」について商標登録を取得し、製造元に差止め・損害賠償を求めた事件を解説。知財高裁は、商標登録自体は有効である一方、従前の取引関係や標章に化体した信用等を踏まえ、製造元に対する商標権行使は権利濫用として許されないと判断した。

第1 商標権の行使と権利濫用

1 総論

商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を専有し(商標法25条)、自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対して、侵害の停止又は予防を請求することができる(同法36条1項)。

もっとも、商標登録が有効に存在している場合であっても、その商標権に基づく具体的な権利行使が常に許されるとは限らない。

民法1条3項は、「権利の濫用は、これを許さない」と定めており、商標権侵害訴訟事件においては、その取得経緯、当事者間の関係、問題となる標章について形成された信用の帰属、権利行使に至る経緯等によっては、特定の相手方に対する商標権の行使が権利濫用として許されないとの抗弁が提出され、権利行使が否定される例が多数ある。

商標権侵害訴訟において、他の知的財産権侵害事件と比較して権利濫用の抗弁が認められる例が多いのは、商標法が、商標に化体した業務上の信用を保護し、需要者の利益を保護することを目的としていることに関連していると考えられている(茶園成樹 (大阪大学教授)/編『商標法 第2版』(有斐閣、2018年)246頁)。

商標権の行使について権利濫用を認めた代表的な最高裁判例として、いわゆるポパイマフラー事件(最二判平成2年7月20日民集44巻5号876頁)がある。

同事件は、漫画「ポパイ」の主人公を想起させる登録商標(指定商品を第36類「被服、手巾、釦鈕及び装身用ピンの類」とする「POPEYE」と「ポパイ」の文字の間にポパイの漫画の図形を用いたもの)について、商標権者が、漫画「ポパイ」の著作権者から複製の許諾を受けてマフラーに「POPEYE」の標章(乙標章)を使用して販売した者に対して商標権を行使したことが問題となった事案である。

最高裁は、以下のとおり判示し、権利行使が客観的に公正な競争秩序を乱すものであり、権利濫用として許されないと判断した。

本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり,客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと,被上告人が,「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは,客観的に公正な競業秩序を乱ずものとして,正に権利の濫用というほかない

その後の裁判例においても、形式上は有効な登録商標が存在する場合であっても、当事者間の従前の関係や、その標章に蓄積された信用などを踏まえ、商標権の行使を認めることが商標法の予定する公正な競争秩序に反すると評価される場合には、権利濫用が成立し得るものとされている。

2 権利濫用の類型

髙部眞規子「商標権の行使と権利濫用」『知的財産法の理論と実務第3巻〔商標法・不正競争防止法〕』113頁(新日本法規、2007)によれば、権利濫用と認められた裁判例は、次のとおりに整理できるとされている(金井重彦 編著/鈴木將文 編著/松嶋隆弘 編著『商標法コンメンタール〔新版〕』(勁草書房、2022年)636頁以下)。

A 登録商標に商標権者X独自の信用が化体しておらず,正当に標章が帰属すべき第三者Zが存在する場合

 A─1 権利取得過程に濫用がある場合

 A─2 権利行使段階での濫用がある場合

B 商標登録自体に問題がある場合

C 相手方の行為が正当と評価される場合

 C─1 相手方が正当に標章が帰属すべき第三者Zから許諾を得ている場合

 C─2 商標法上の抗弁が成立しそうな場合

D 商標権に対する実質的な侵害が存在しない場合

上記ポパイマフラー事件については、A─1とC─1の類型に該当するとされている。

本件については、後述するとおり、控訴審は、原告による本件商標権の取得自体に背信性がなかったとしても、被告に対する権利行使が認められるかは別問題であると判示している。この点に着目すると、本件は、上記分類のうち、正当に標章が帰属すべき第三者との関係で、商標権の取得自体ではなく、その具体的な権利行使が濫用となるA―2の類型に近い事案と位置付けることができる。

第2 本件の概要

本件は、業務用生ごみ処理機の販売を行う原告が、「ゴミサー」の標準文字からなる登録商標(以下「本件商標」という。)について商標権を有していたところ、業務用生ごみ処理機の製造・販売を行う被告が、その商品について「ゴミサー」の標章(以下「被告標章」という。)を使用していたことから、被告に対し、商標法36条1項及び2項に基づく使用の差止め及び商品の廃棄等を求めるとともに、商標権侵害の不法行為に基づき、4億1742万2688円の損害賠償を求めた事案である。

原告商標と被告標章が類似すること、被告商品が本件商標の指定商品に当たることについては争いがなく、主な争点は、原告による本件商標権の行使が権利濫用に当たるか、被告に先使用権(商標法32条1項)が成立するか等であった。

裁判所の認定事実は、概要として以下のとおりである。

1 「ゴミサー」の使用開始と旧商標権

被告は、平成4年頃、バイオテクノロジーを利用した業務用生ごみ処理機を開発し、生ごみがミキシング後に消滅し、液体となってサーっと流れていくことに由来して、商品名を「ゴミサー」とした。
被告は同年頃から「ゴミサー」の名称で商品の製造・販売を開始し、遅くとも平成9年頃からは、商品自体にも「ゴミサー」の標章を付していた。
被告代表者Aは、平成5年12月7日、「ゴミサー」について、指定商品を第7類「生ゴミ処理機」とする商標登録出願をし、平成11年6月18日に設定登録を受けた。
もっとも、この商標権(以下「旧商標権」という。)について更新登録の申請がされなかったことから、平成21年6月18日の存続期間満了により消滅した。

2 原告と被告との販売代理店関係

原告は、平成8年2月7日頃、被告との間で販売代理店契約を締結し、その後、被告が製造する「ゴミサー」を販売するようになった。
被告は原告以外にも20社を超える事業者との間で販売代理店契約を締結していたが、原告による販売割合は次第に増加し、平成19年以降は被告商品の販売数の60%を超え、本件商標が出願された平成27年の前後には約62%から80%を占めていた。
このように、原告は「ゴミサー」の販売に大きく寄与した有力な販売代理店であった。
一方で、被告商品には製造元として被告の会社名を記載した名板が付され、原告作成のパンフレットにも、被告商品の「製造元」として被告、「発売元」として原告がそれぞれ記載されていた。
また、被告は、販売代理店との契約において商品の宣伝方法について被告の了解を得ることを求めるなど、商品の広告についても一定の管理を行っていた。

3 原告による本件商標の取得

原告は、平成26年頃、取引関係者からの指摘により、旧商標権が既に消滅していることを知った。
そこで、原告は、取引関係者の知人の弁理士に対し、旧商標権が消滅しているか、原告自身が「ゴミサー」の商標を取得することができるかなどについて相談した。
その際、弁理士からは、原告が「ゴミサー」を使用できるようにするだけなのか、被告にも使用させないようにするのか取得目的が明らかでないこと、被告商品とほぼ同一の商品を同一名称で販売する場合には訴訟リスクがあること、被告に名称を使用させないのであれば商標権取得後の差止請求という方法が考えられるものの、先使用権が問題となることなどの指摘を受けていた。
その後、原告は、以前から付き合いのある別の弁理士に依頼し、平成27年1月19日、「ゴミサー」の標準文字について、指定商品を第7類「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」とする商標登録出願を行い、同年6月5日、設定登録を受けた(登録第5769618号)。
原告は、本件商標の設定登録を受けたことを被告や他の販売代理店に知らせず、被告が引き続き「ゴミサー」を使用していたにもかかわらず、この時点では被告に対して商標権を行使しなかった。

第3 本件商標をめぐる先行する無効審判及び審決取消訴訟

1 無効審判

原告と被告との取引関係はその後悪化し、原告は令和元年頃から、別会社である株式会社テクノウェーブに製造を委託した業務用生ごみ処理機を、「ゴミサー」の名称で販売するようになった。
これに対し、被告は、令和元年9月20日、本件商標について商標登録無効審判(無効2019-890054号)を請求した。
被告は、自らが本件商標の出願前から「ゴミサー」の名称を使用してきたことなどを理由として、本件商標が商標法4条1項10号及び19号に該当すると主張した。
しかし、特許庁は、無効審判請求を不成立とした。

2 知財高判令和4年10月18日(令和3年(行ケ)第10081号)

被告は、上記審決の取消しを求めて知財高裁に審決取消訴訟を提起したが、知財高判令和4年10月18日(令和3年(行ケ)第10081号)は、被告の請求を棄却した。

同判決では、被告が平成4年から20年以上にわたり「ゴミサー」を販売し、平成26年までに累計2514台を販売していたことなどが認定された。
もっとも、業務用生ごみ処理機全体の市場における被告商品の市場占有率は概ね10%前後にとどまり、平成16年以降の年間販売台数も70台前後で推移していた。
また、受賞歴や新聞報道等についても、その多くが山形県内又は酒田市内におけるものであり、本件商標の出願前約10年間について目立った報道実績等がなかった。

これらの事情から、知財高裁は、本件商標の出願時及び登録査定時において、「ゴミサー」が被告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとは認められないとして、商標法4条1項10号該当性を否定した。

また、原告に商標法4条1項19号の「不正の目的」があったとも認められないとして、同号該当性も否定した。

その結果、本件商標の登録は有効に維持され、その後、同判決は確定した。

このように、本件商標について、被告が先に「ゴミサー」を使用していたことを理由とした無効不成立審決についての審決取消訴訟は棄却されたところ、本件商標権侵害訴訟では、登録商標を有する原告が被告による「ゴミサー」の使用を禁止することができるかが改めて問題となった。

第4 原審の判断

東京地判令和8年1月16日(令和5年(ワ)第70505号)は、原告による被告に対する本件商標権の行使は、権利濫用として許されないとして、原告の請求を全部棄却した。

1 「ゴミサー」の標章に化体した信用

東京地裁は、まず、以下の事情から、本件商標の出願当時、「ゴミサー」という標章に化体した信用が誰に帰属していたかを検討した。

・被告は、平成4年頃から、自ら開発した業務用生ごみ処理機の商品名として造語である「ゴミサー」に決定して以来、継続して同名称を使用していた。

・また、被告商品は、被告自身又は原告を含む複数の販売代理店を通じて販売され、その販売数は、ピーク時には年間200台以上、その後も年間50台から100台程度で推移していた。

・被告のパンフレットには「ゴミサー」の標章や被告商品の写真が掲載され、被告は、販売代理店との間で契約書を締結して広告の内容についても管理していた、被告商品自体にも、製造元として被告の会社名を表示した名板が付されていた。

これらの事情から、東京地裁は、本件出願当時、

「ゴミサー」の標章には、被告商品の開発製造者であり、複数の販売代理店に対する販売元に当たる被告の信用が化体していた

と判断した。

2 原告による販売活動の評価

他方で、裁判所は、原告が、本件出願時までに被告商品の60%以上、多い時には約80%を販売する最有力の販売代理店であり、「ゴミサー」の信用の形成に相当程度貢献していたことを認めつつ、

・業務用生ごみ処理機の性能や不具合等には製造者が重要な意味を有し、被告商品にも製造元として被告の会社名が表示されていたこと

から、原告の営業活動によって「ゴミサー」の標章に原告の信用が化体していたとしても、それはあくまで一販売代理店としての信用であり、「ゴミサー」という標章に化体した信用が原告独自のものとなったとはいえないとした。

また、旧商標権の存続期間が満了したからといって、被告が「ゴミサー」の標章についての利益を放棄したことにはならず、そのことによって「ゴミサー」に化体した信用が被告から原告へ移転するものでもないと判断した。

3 本件商標の取得経緯

裁判所は、原告が、旧商標権の消滅を知った後、被告が引き続き被告商品について「ゴミサー」を使用していることを十分に認識しながら、販売代理店契約が継続している間に、被告に無断で本件商標を出願し、設定登録を受けたものであると認定した。

4 権利行使に至る経緯

裁判所は、原告が、本件商標について設定登録を受けた後も、その事実を被告に知らせず、被告による「ゴミサー」の使用に対する権利行使をしていなかったにもかかわらず、被告との間で販売代理店契約の終了や「ゴミサー」の使用について協議をすることなく被告商品の販売を中止し、別会社が製造した商品について、自ら「ゴミサー」の標章を付して販売し、無効審判請求不成立審決が確定したのを受けて、被告に対して原告商標権の権利行使を行ったものであると認定した。

5 権利濫用

東京地裁は、以上の事情等に照らし、原告による被告に対する本件商標権の行使は権利濫用として許されないと判断した。

そのため、先使用権の成否及び損害額について判断することなく、原告の請求を全部棄却した。

第5 知財高裁の判断

原告が控訴したところ、知財高判令和8年9月9日(令和8年(ネ)第10017号)は、原審の判断を維持し、控訴を棄却した。

控訴審判決は4頁と比較的短く、原審の事実認定・判断を前提としつつ、控訴審で原告が主張した点について判断を加えている。

1 知財高裁による判断の付加

知財高裁は、

  • 「ゴミサー」という標章は、被控訴人が自ら開発した商品の名称として発案したものであること

  • 被控訴人がその後も「ゴミサー」の使用を継続していること

  • 控訴人は被控訴人商品の販売代理店として「ゴミサー」を使用してきたこと

  • 控訴人は旧商標権の消滅を知ると、被控訴人に無断で本件商標を出願し、商標権を取得したこと

ことから、

控訴人と被控訴人の間においては、被告旧商標権が消滅し、原告商標権の設定登録がされた後も、控訴人は被控訴人による「ゴミサー」という商品名の使用を尊重すべきものであり、被控訴人はその使用を控訴人に妨げられない正当な利益を有していると解される。 したがって、被控訴人による被告標章の使用に対する原告商標権の行使を否定した原審の判断は、これを是認することができる。

と判断した。

2 商標権取得自体の背信性に関する主張

控訴人は、被控訴人の承諾を得て本件商標を出願したものであり、被控訴人に「ゴミサー」を使用させないことを目的として出願したものでもないから、本件商標権の取得には背信性がないと主張した。

しかし、知財高裁は、まず、控訴人が本件商標を出願することについて被控訴人の承諾があったとは認められないとした。

その上で、

控訴人が本件出願をして原告商標権を取得したことに背信性がないとしても、被控訴人に対する権利行使が認められるかはこれとは別問題である

と判断し、控訴人の主張を退けた。

3 本件商標登録の有効性に関する主張

控訴人は、商標登録無効審判請求につき請求不成立の審決が確定するなど、控訴人による原告商標権の取得は適法なものであることが確認されていると主張した。

しかし、知財高裁は、

商標登録が有効であるからといって、本件の事実関係の下で被控訴人に対する権利行使が否定されると解することの妨げとなるものでない

と判断し、控訴人の主張を退けた。

4 被控訴人による自らのずさんな知的財産管理により旧商標権を失ったものであって、被控訴人が権利濫用を主張することは不誠実である旨の主張

控訴人は、そもそも被控訴人側が旧商標権の更新手続を怠ったために商標権を失ったのであり、そのような被控訴人が権利濫用を主張すること自体が不誠実であるとも主張した。

しかし、知財高裁は、

被控訴人による商標権の管理が不適切であったことは確かであり、 本件の紛争はこれに起因するものである。そして、その結果、被控訴人は「ゴミサー」という商品名を独占できないという不利益を負うものであるが、控訴人との関係でその使用を妨げられないと解すべきことは前記のとおりである。

と判断し、控訴人の主張を退けた。

第6 本判決について

本件で興味深いのは、先行する審決取消訴訟では本件商標の登録無効が否定された一方で、本件商標権侵害訴訟では、被告に対する具体的な権利行使が権利濫用として否定された点である。

本判決は、商標登録の有効性と、特定の相手方に対する商標権行使の可否とは別に検討され得ることを明確に示す事例といえる。

また、商標権の取得・更新管理の重要性とともに、商標紛争においては登録の有効性だけではなく、当事者間の取引関係やブランドの形成過程を含めて検討する必要があることを示す裁判例といえる。

なお、両社間の紛争は本件にとどまらず、被告は、原告が別会社に製造を委託した生ごみ処理機についてした表示が品質誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)に当たるとして損害賠償請求訴訟を提起しており、知財高裁は、被告の原告に対する6801万4010円の損害賠償請求を認容している(知財高判令和6年7月4日(令和5年(ネ)第10112号))。
また、被告が第40類「生ゴミ処理機の貸与、化学機械器具の貸与」を指定役務として登録を受けた「ゴミサー」の商標については、原告が商標登録無効審判を請求し、知財高裁は、原告が保有する第7類「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」を指定商品とする「ゴミサー」の商標との関係で商標法4条1項11号に該当するとして、無効審判請求を不成立とした審決を取り消している(知財高判令和7年12月1日(令和6年(行ケ)第10056号))。

このように、「ゴミサー」をめぐっては、商標登録の有効性、商標権侵害、不正競争防止法上の品質誤認表示等をめぐり、両社間で複数の紛争が生じている。

商標の類否、商標権侵害、警告対応については、商標・商標権侵害に関する取扱業務をご覧ください。
商標権侵害の警告への対応 →
商標権に関する紛争の初動相談 →

©️ 2026 KOSUKE SUGAWARA