CASE NOTE / 裁判例

ハンドバッグの背面ポケットと商品形態の実質的同一性(知財高判令和8年8月18日(令和8年(ネ)第10029号))

不正競争

令和8年8月18日

知的財産高等裁判所

令和8年(ネ)第10029号

ハンドバッグの形態模倣をめぐり、背面の大きな外部ポケットの有無から実質的同一性が否定された事例。商品の共通点と相違点をどう評価するか、知財高裁の判断を検討する。

第1 商品形態の模倣と実質的同一性

1 形態模倣の要件

不正競争防止法2条1項3号は、次の行為を不正競争と定めている。

三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

また、同条4項と5項は、「商品の形態」と「模倣する」をそれぞれ次のように定義している。

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

形態模倣における実質的同一性は、抽象的なデザインの発想だけではなく、具体的な商品の形態を対比して判断する必要がある。

2 実質的同一性の基本的な判断枠組み

商品の形態が完全に一致しなくても、実質的同一性は認められ得る。東京高判平成10年2月26日(平成8年(ネ)第6162号〔ドラゴン・ソード事件〕)は、わずかな改変があっても両商品の形態が酷似するなら実質的に同一の形態とする一方で、改変の着想の難易、内容・程度、形態的効果等を総合し、改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品形態と酷似すると評価できない場合には実質的に同一の形態とはいえない、との判断枠組みを示した。同事件では、剣に巻きつく竜という基本的な構成が共通していたものの、後発商品では竜が双頭となり、大きさなども異なるため、実質的同一性が否定された。

東京地判平成13年12月27日(平成12年(ワ)第20801号〔小型ショルダーバッグ事件〕)は、これと共通する判断枠組みを示し、相違がわずかな改変に基づき、全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまる場合には実質的同一性を肯定する一方、改変によって相応の形態的特徴が生じ、全体の形態の類否において無視できない相違となる場合には否定すると述べた。

不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは,既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい,他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に,形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に類似していることを要するものである。そして,問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して,当該相違部分についての着想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできない。

同事件では、収納部やポケットの配置、内部構造まで多くの特徴が共通し、被告商品での寸法や細部の相違は些細なものであり、相応の形態的特徴をもたらさないとして、実質的同一性が肯定された。比較対象は正面の見た目に限られず、通常の使用時に認識される内部の形態にも及ぶ。

この判断枠組みを踏まえると、共通点や相違点を数えるだけでは足りず、先行商品全体の中で意味を持つ形態を把握し、後発商品の変更がその形態を維持しているか、商品全体に別の形態的特徴をもたらしているかを評価することになる。
そして、改変の着想が容易かどうかは判断材料の一つであり、容易な改変でも全体の印象が大きく変われば同一性は否定され得る。逆に、工夫を要する改変であっても、全体の形態がほぼ変わらなければ直ちに同一性が否定されるわけではない。

3 相違点が商品全体に与える影響

知財高判平成26年2月26日(平成25年(ネ)第10075号・第10077号〔電気マッサージ器兼用携帯ストラップ事件〕)では、後発商品の本体がスケルトンで、内部にLEDが設けられていた。しかし、先行商品の特徴である「電気マッサージ器を極端に小さくして携帯ストラップとして使える形態」は共通し、その他の細部も酷似していた。透明化や光源の追加は既知の演出方法であり、商品の大きさと形状がもたらす特徴的な効果を変えないとして、実質的同一性が肯定された。つまり、変更の着想と商品全体への形態的効果の双方を検討した事例である。

これに対し、大阪地判令和5年10月31日(令和4年(ワ)第6582号〔婦人服事件〕)は、パール装飾のあるオーバーオール型ロングスカートについて、肩紐の長さ、装飾の端の位置、スカートの形状の差は些細とした一方、光沢と質感の相違が商品全体に対する需要者の印象に相当程度影響するとして、実質的同一性を否定した。同法2条4項が光沢・質感も「商品の形態」に含めることを踏まえた判断である。同判決は複数の婦人服を対象とするが、ここで述べたのはそのうち原告商品1と被告商品1の対比である。

前者では透明化やLEDの追加が全体の形態的特徴を変えず、後者では一つの相違点が全体の印象を左右した。相違の大小は、数や部材の名称だけでなく、当該商品の形態全体における働きによって評価される。大阪地判平成29年1月19日(平成27年(ワ)第9648号等〔ブラウス等事件〕)も、ボタンの柄や窪みなどの差を全体の中では微細と評価した肯定例である。

4 通常の使用時に認識される形態

知財高判令和8年1月26日(令和7年(ネ)第10055号〔コート事件〕)では、コートのシルエットなどの共通点が主張されたが、実質的同一性は否定された。控訴人は、チンフラップを付けて襟を立てる着方は通常の用法ではないとして、その状態で表れる相違を軽視すべきだと主張した。知財高裁は、襟を立てた着用も通常の用法に当たると判断した。また、需要者に似ているかを尋ねたアンケートについても、近接写真を使わず、解像度不明の全体画像を画面上で比較させた方法では、実物の形態に対する認識を十分に把握できないとした。

同判決は、商品の形態の実質的同一性について、創作者の認識を基準に判断すべきだとの主張も退け、同条4項の定義を踏まえて需要者の認識を基準とすべきだと述べた。これは創作者の視点だけを基準とする主張に対する判断であり、他の事案における改変の着想の難易という考慮要素の位置付けまで一律に否定したものと読むべきではない。また、どの面や使用状態を比較対象に含めるかは、販売者による呼び方や、最も多い使用方法だけで決まるものではないと思われる。

以上の裁判例には、①商品全体の中で意味を持つ形態、②共通点と相違点の内容・位置・大きさ、③相違点が全体の形態に与える効果、④変更の着想の難易、⑤需要者が通常の用法で認識する面や状態、という視点があり、これらを機械的に点数化するのではなく、商品の具体的な形態を対比している。

そして、本件の知財高判令和8年8月18日(令和8年(ネ)第10029号)は、ハンドバッグの形態について多くの共通点といくつかの些細な相違を認めながら、背面の大きな外部ポケットによって商品全体の印象が変わるとして、実質的同一性を否定した。

5 ありふれた形態との関係

先行商品の形態が保護対象となるかと、後発商品の形態がそれと実質的に同一かは、区別して検討する必要がある。先行商品全体の形態が同種商品と比べて何の特徴もないありふれたものであれば、商品開発に投じた成果の保護という3号の趣旨に照らし、同号による保護対象とはならないと解されている。
他方、個々の構成が既に知られていても、その具体的な組合せによる商品全体の形態を見なければならない。

ファッション商品では、共通する輪郭や装飾が従前から見られるかも、形態の評価に関わる。ただし、ありふれた形態かという保護対象の問題と、改変が全体に与える効果という実質的同一性の問題を混同しないように留意が必要である。

6 商品等表示としての保護との違い

商品形態は、一定の場合、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」としても保護される。同号は、次の行為を不正競争と定める。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

同号では、商品等表示が特定の事業者の商品を示すものとして需要者に広く認識されているか、表示の類似性や混同のおそれなどが問題となる。

また、形態模倣とは、保護が及ぶ期間も異なる。同法19条1項6号イは、2条1項3号の形態模倣について、次の行為には差止請求や損害賠償請求等に関する規定を適用しないと定める。

イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

したがって、3号による保護は、原則として先行商品が日本国内で最初に販売された日から3年間に限られる。他方、1号には同じ3年間の制限はなく、販売開始から3年が経過した後も、商品形態が周知の商品等表示に当たり、表示の類似性や混同のおそれなどの要件を満たせば、同号による保護が問題となり得る。もっとも、3号の保護期間を過ぎれば当然に1号で保護されるわけではない。両号では、保護の対象となる利益も、成立要件も異なる。本件で争われたのは3号の形態模倣であり、後発商品の形態が先行商品の形態と実質的に同一かという点であった。

第2 事案の概要

原告の株式会社ソラスタイルズは、「FEEL AND TASTE」の「marche-mini」としてハンドバッグを販売していた。被告の株式会社ルートートは、「LT.デリ.CORON」シリーズのバッグを販売した。

原告は、被告商品が原告商品の形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法4条に基づき640万円の損害賠償を請求した。東京地裁令和8年2月16日判決(令和6年(ワ)第70219号)は請求を棄却し、原告が控訴したが、知財高裁も控訴を棄却した。

両商品は、バッグ本体の形状やハンドル、底面からハンドル上部へ延びるパイピングなど、多くの形態上の特徴を共有していた。他方、被告商品の背面外側には、原告商品にはない大きな長方形のポケットが設けられていた。

第3 裁判所の判断

1 原審の判断

東京地裁令和8年2月16日判決(令和6年(ワ)第70219号)は、両商品の共通点として、パイピングが形成する縦長の略二等辺三角形、脇面や底面の形状、ハンドルや口回りの構成、近似する各部の寸法などを挙げた。他方で、本体の形状、ブランドタグの有無、背面の外部ポケットの有無、内ポケットの位置・形状、口回りの段差、ハンドル付け根の縫製という相違点を認定した。

原審は、外部ポケット以外の相違点については、いずれもそれ自体では実質的同一性を否定するほどのものではないと評価した。しかし、被告商品の背面中央の大きな外部ポケットは視覚的に容易に認識でき、強く印象に残るため、商品全体の形態に与える効果を無視できないとした。ポケットを付けるという発想自体は容易であっても、具体的な寸法・配置・形状を定めて被告商品のデザインに至ることは必ずしも容易でないとも述べた。

さらに原審は、被告が外部ポケットを「ルーポケット」として商品上の訴求点にしていたことや、背面もバッグを置いたときや持ち方によって人目に触れることを考慮した。そして、他の相違が些細でも外部ポケットの差は些細とはいえず、両商品の形態は実質的に同一ではないとして、請求を棄却した。

2 控訴審の判断

(1)他の相違点の評価

知財高裁は原審の結論を維持し、実質的同一性についての具体的な対比部分を大きく書き換えたが、被告商品のバッグ本体が原告商品よりやや長方形に近いこと、内ポケットの位置、ハンドル付け根の縫製、口回りの段差、原告商品にある小さなブランドタグの有無については、いずれも商品全体の形態に与える影響が乏しいとして、些細な相違と評価した。

特にブランドタグについては、外から見える相違であっても、比較的小さく、パイピングに連続して配置されていることから、全体の形態を大きく変えるものではないとされた。

(2)背面ポケットの評価

これに対し、被告商品の背面には、ハンドルの付け根間とほぼ同じ幅を持ち、バッグ本体の高さに近い大きさの外部ポケットがあった。このポケットは、パイピングが形作る三角形の内側の広い範囲を覆っていた。

原告商品では、背面でも、パイピングが作る縦長の三角形が際立つが、被告商品では、その位置に大きなポケットがあるため、三角形の印象が後退し、ポケットの方が目立つことになる。
知財高裁は、この相違が商品全体の印象を大きく変えると判断した。

また、原告は、ポケットのある側は「Back」と表示され、使用時には身体側に隠れるから、正面のデザインこそ重要だと主張した。しかし、知財高裁は、普段使いのトートバッグでは正面と背面は必ずしも固定されず、好みや使用場面によって両面が人から見える側になり得るとした。また、販売時にも両面の画像が掲載され、ポケットをデザイン上のポイントとして紹介する例もあった。

さらに、裁判所は、外側の大きなポケットの色彩、寸法、形状、配置を決めるには相応の工夫を要し、ありふれた形態とはいえないと評価し、原告商品の内側にもポケットはあったが、内側から外側へ移しただけとは認めなかった。

その結果、他の相違点が些細であり、多くの共通点が存在するとしても、背面ポケットの相違は無視できず、両商品の形態は実質的に同一ではないとされた。

第4 検討

本判決は、「ポケットを付ければ形態模倣を免れる」という一般的な基準を示したものではないことに留意する必要がある。
本件のハンドバッグについては、ポケットが大きく、外観上目立つ位置にあり、先行商品の特徴的な三角形の印象を弱めていたという、具体的な形態の比較に基づく判断であり、変更の箇所や大きさが違えば、結論も異なり得ると思われる。

原審と控訴審の結論は同じだが、説明の内容には違いがあり、原審は外部ポケット自体の視覚的な目立ち方や被告の訴求方針などを総合したが、控訴審は、原告商品のパイピングによる三角形が背面でも際立つのに対し、被告商品ではポケットがその印象を後退させるという、両商品の具体的な形態の対比を明確にした。背面の見え方についても、普段使いのトートバッグでは正面・背面が固定されないことを示して、原審の判断を補強している。

訴訟では、当事者が挙げた共通点と相違点を列挙するだけでなく、裁判所がどの部分を形態上の差異として捉え、その差異が商品全体の見え方をどう変えるかを検討することが重要となる。
原審の判断過程への異議が退けられたのも、被告が外部ポケットの重要性と実質的同一性を争っていたという、本件の主張経過を踏まえた判断である。本件で、タグ、縫製、寸法の差は些細とされた一方、背面ポケットが重視されたのは、ポケットという部材の有無だけによるものではなく、ポケットの寸法・配置によって、原告商品の特徴であるパイピングの三角形の印象が後退するという関係が、控訴審で具体的に示されたからであると考えられる。
このように、実質的同一性を否定するには、通常の使用時に視認される各面を踏まえ、相違点の形態的効果を対比して示すことが、主張立証上も重要である。

改変の着想の難易を実質的同一性の判断でどう位置付けるかについては、本件判決も、ポケットを設ける着想が容易でないという一点から実質的同一性を否定したわけではなく、なお検討を要すると思われる。
本件では、先行商品の特徴的なパイピングが与える印象と、後発商品でポケットが与える印象を商品全体の中で比較したことが、判断の中心にあったが、需要者が通常の使用や購入時にどの面を見るかも、商品ごとに検討する必要がある。

家具、照明、生活雑貨などの製品でも、外観の一部に機能的な部材を加えた場合、その部材が既存商品の特徴的な構成をどの程度変えるかが問題となり得る。本判決はトートバッグの具体的形態についての判断であり、他の商品についてそのまま結論を及ぼすことはできない。

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